
「お姉ちゃんのこと、全部は背負えない」―60代が姉の死後手続きを通して気づいたこと
2026.01.28



「お姉ちゃん、ちょっと早すぎるよ……」
62歳の弘子さん(仮名)は、火葬場の控室で、骨壺の前に座り ながら小さくつぶやきました。
亡くなったのは、5つ上の姉・美佐子さん。独身で、都内の賃貸マンションで一人暮らしをしていました。数年前に定年退職し、パートをしながら趣味の旅行やカラオケを楽しんでいたはずでした。
しかし、その普通の日々は唐突に終わりました。
ある日、姉のパート先から弘子さんのもとに電話がかかってきました。「ここ3日ほど美佐子さんが出勤されず、連絡もつかないんです」
嫌な予感がして、合鍵を持っていた弘子さんはすぐに姉のマンションへタクシーを飛ばしました。
玄関を開けると、リビングで倒れている姉が見つかりました。
駆け寄って肩を揺すりましたが反応はなく、体はすでに冷たくなっていました。
救急車を呼びましたが、隊員は到着するなり状況を確認し、「警察を呼びますね」と告げました。事件性がなくても、自宅で一人で亡くなっていた場合は、警察が立ち会って状況を確認したり、医師による検案が行われたりすることが多いのです。
喪主として、悲しむ暇もなく押し寄せる対応
きょうだいは弘子さんと美佐子さんの二人だけ。
姉にも近い身寄りはなく、すべての対応をするのは弘子さんになりました。
まず待っていたのは、警察からの事情聴取でした。
淡々と聞かれる質問に答えながら、弘子さんは現実感のないまま震えていました。
検案後、ようやく遺体が戻ってきた後も息つく暇はありません。
すぐに葬儀社を手配し、日程の調整や葬儀の形を決めなければなりません。
警察対応の疲れも重なり、弘子さんの頭はパンク寸前でした。
葬儀費用と「誰がどこまで出すのか」という現実
葬儀社との打ち合わせで、具体的な金額の話になりました。
「このプランですと、祭壇や棺など含めておおよそ50万円前後になります」
提示された見積もりを前に、弘子さんは一瞬、言葉を失いました。決して安くはない金額です。
姉にはある程度の預金があるはずでした。しかし、通帳やカードが部屋のどこにあるのか、暗証番号は何なのか、この時点では全く分かりません。死亡届を出してしまうとほどなく口座は凍結され、すぐには引き出せなくなります。
結局、葬儀費用は弘子さんが自分の貯蓄から立て替えることになりました。
「姉のためだから」と自分に言い聞かせつつも、自分自身も定年を迎え、老後資金を意識し始めている年齢です。数十万円というお金が一時的とはいえ減ることに、心のどこかで小さなざらつきを感じてしまいました。
葬儀が終わってからの方が、むしろ長かった
葬儀が無事に終わっても、やるべきことは続きます。むしろ、ここからが本番でした。
役所での届け出や年金の手続き。銀行、クレジットカード、公共料金、携帯電話会社への連絡。そして何より大変だったのが、賃貸マンションの解約と、部屋の片づけ(遺品整理)でした。
「ここまでひとりで抱えるとは思っていませんでした」
姉の一番近い法定相続人は弘子さんです。山のような書類と格闘し、週末は姉の部屋でゴミ袋と向き合う日々。悲しみより先に、事務作業のしんどさと終わらない徒労感が 押し寄せました。
「お姉ちゃん、何をどうしたかったのか分からない」
姉の部屋の片づけを進める中で、押し入れの奥からいくつもの通帳と、一枚の保険証券が見つかりました。保険会社に連絡すると、死亡保険金を受け取れる契約だと分かりました。
受取人は弘子さんになっていました。そのお金は、葬儀費用や片づけ費用を賄うのに十分な額で、弘子さんの立て替え分も、最終的にはそこから精算することができました。
「最後の最後で、お金を残してくれていたことには、本当に救われました」
ただ同時に、整理しながらこんな思いも芽生えました。
「でも、誰にいくら残したかったのか、葬儀は質素でよかったのか。お墓はどうしたかったのか……。本当は、何か考えがあったのかもしれないけど、もう本人に聞くことはできない」
終身保険というお金の備えはありました。けれど、どう使ってほしいかという遺志が見えないことが、弘子さんの心に小さなトゲのように引っかかり続けました。
「自分のとき」は誰がここに座るんだろう
四十九日が終わり、ようやく一息つけた頃。弘子さんは、ふと自分の未来を重ねてみました。
自分もまた、おひとりさまです。都内の賃貸マンションで一人暮らし。貯金と、会社員時代から続けている積立、そして親が勧めてくれた保険がいくつか。
「私が突然いなくなったら、今度は私の後片づけを誰がするんだろう」
今回、自分が味わったあの怒涛の日々。警察での対応、金銭面の不安、終わらない手続きの山を自分の場合は誰が対応することになるのか。
葬儀の打ち合わせで頭を抱え、書類の山を前にため息をついていた、あの日の自分の姿がまざまざとよみがえってきました。
終身保険があるだけでは、足りないかもしれない
姉の終身保険があったことで、金銭的な負担はカバーできました。それは間違いなく大きな救いでした。同時に、「お金の塊を用意するだけでは、半分しか解決していない」とも痛感しました。
そのお金を、葬儀代や片づけ代として優先的に使ってほしいこと。でも残りは誰に、どんな形で渡したいのか。
こういった使い方のイメージや希望が少しでもメモに残っていれば、残された側の迷いや精神的な負担は大きく減るはずです。
「お金がないのも困るけど、お金はあるけど、どうしていいか分からない状態も、残された人にとっては同じくらい大変なんだな」
それが、姉の死を通じて弘子さんが骨身に染みて感じたことでした。
ノートを一冊買って、最初の一行だけ書いた
ある日、弘子さんは文房具店で少しだけ良いノートを一冊買いました。
帰宅して、表紙の裏に、まずこう書きました。
「自分がいなくなった後のことを、ここに少しずつメモしておく」
そして、次のページにこう続けました。
● 葬儀は、ごく小さく行ってほしい。
● お墓はこだわらない。
● 最後に使うお金(葬儀・片づけ用)として、100万円くらいは別にしておきたい。
● そのために、終身タイプの保険をひとつ整理して受取人に伝えておく。
まだ、具体的なことは何も決めていません。ただ、「ここだけは分けておく」「こうしてほしい」という考え方をノートに書いたことで、自分の中で、何かが少し落ち着いた気がしました。
60代から始めるのは、「遺産づくり」ではなく「後片づけの軽量化」
姉の葬儀とその後の手続きを経験して、弘子さんは痛感しました。
人が亡くなると、お金と段取りの話が必ずセットでやってくるこ と。そして、「誰かが何とかしてくれる」で済ませたら、その誰かが悲しむ暇もないほど苦労すること。
60代から考えることは、決して遺産づくりだけではありません。
自分の老後の生活を守るお金。
病気や介護に備えるお金。
そして、最後の後片づけを軽くするためのお金と、その使い道。
これらを少しずつ切り分けて、「ここからは、自分の最期のために使ってほしい」と目印を付けておくこと。
それは、残された人たちへの優しさであり、同時に自分自身が安心してこれからの時間を過ごすための、静かな準備でもあるのだと思います。
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