
二階の階段がこわくなった日―66歳おひとりさまが「住まい」と「お見送りの費用」を考え始めた理由
2026.01.04



「前は何とも思わなかったのになあ……」
66歳の良子さん(仮名)は、洗濯カゴを持って二階から降り てくる途中でふと足を止めました。
手すりをしっかり握りながら、足元を確認するように一段ずつ降りていく自分に違和感を覚えます。
郊外の小さな一戸建て。30年以上暮らしてきた、愛着だらけの家です。リビングとキッチンは一階、寝室と趣味のパッチワークをする部屋は二階にあります。
若いころは、洗濯物を抱えて駆け下りることさえありました。階段の上り下りなど、意識したこともありませんでした。けれどここ数年、ふとした拍子に「もし今、足を滑らせたらどうなるんだろう」と、妙に冷たい恐怖心が湧いてくるようになっていました。
ご近所さんの転倒が、急に自分ごとに見えた
そんな矢先、近所で同年代の女性が、自宅の階段から落ちて骨折したという話を聞きました。
「骨自体はくっついたらしいけど、ひとり暮らしは難しくなってね」
商店街の八百屋さんが、声をひそめて教えてくれました。しばらくは娘さんの家で暮らし、その後はリハビリ環境の整ったサービス付き高齢者向け住宅に移ったのだそうです。
「家の中でつまずいただけで、暮らし全体が変わってしまうこともあるんだ」
それを聞いた日の夜、良子さんは二階の寝室から一階のトイレまでの動線を、何度も頭の中でシミュレーションしていました。
ひとり暮らし。もし夜中に階段を踏み外して動けなくなったら、誰がどのタイミングで気づいてくれるのか。
「まだ大丈夫、私は元気だから」と自分に言い聞かせながらも、胸の奥に小さな不安の種が残り続けました。
何気ない市役所のチラシが気になり始める
ある日、ポストに市役所からのチラシが入っていました。
【高齢期の住まいの相談会 ~このまま自宅?それとも住み替え?~】
いつもなら「まだ関係ないわ」と資源ごみに出してしま うところですが、その日はテーブルの上に置いてじっくり読むことにしました。
● バリアフリー賃貸への住み替え事例
● 安心サービス付きのシニア向け住宅の紹介
● 空き家の売却や活用相談
「まだ自分には早い」と思いながらも、紙面に載っている同年代くらいの人の写真付きの事例が妙にリアルに見えます。それは、遠い未来の話ではなく、明日の話のように思えたのです。
親の家の空き家問題がフラッシュバックする
チラシを眺めているうちに、数年前に両親が亡くなった あとの実家の片づけを思い出しました。
地方にある古い一軒家。しばらく誰も住まないままにしていたら、あっという間に庭の草木は伸び放題になり、郵便受けはチラシで溢れかえりました。
固定資産税や維持費の負担もあり、きょうだいと話し合って手放すことにしましたが中の荷物の整理から売却の手続きまでかなりの時間と労力がかかりました。
「家って思い出の箱でもあるけど、持ち主がいなくなった後は残された人にとっての大きな負担にもなり得るんだ」
そのときの徒労感が、今、自分の暮らしているこの家と重なってきたのです。自分がこのまま住み続けたら、いずれこの家もあの空き家のようになってしまうのだろうか。
相談会に行ってみると、選び方が見えてきた
思い切って、市役所の相談会に足を運んでみました。会場には、同年代か少し上の人たちがちらほら。
個別ブースで話を聞くと、選択肢は一つではないことが分かりました。
リフォームしてそのまま住み続ける人、思い切って駅近の便利なマンションに移る人、安心を買うためにシニア向け住宅に入る人。
担当の職員は、こんなことも言っていました。
「怪我をしてもう限界になってから動くと、選べる選択肢が極端 に少なくなるんです。元気なうちに、自分ならどれが暮らしやすいかを考え始める方が、結果的に納得のいく暮らしができますよ」
帰りにもらった資料には、家を売却したお金でコンパクトな住まいに移り、手元に残った資金を老後の生活費や、人生の締めくくりにかかる費用に回している人の事例も紹介されていました。
荷物を減らしながら、お金の役割も分けてみる
家に戻って部屋を見回すと、本棚いっぱいの本、ほとんど使っていない来客用の食器、もう何年も着ていない服が目につきます。
「もし本当に引っ越すなら、まずは半分くらい減らさないととても入りきらないわね」
そう感じたとき、ふと物の整理と同じようにお金の中身も整理した方がいい気がしてきました。
● 毎月の生活を回すお金
● 病気や介護が必要になったときの備え
● そして、自分のお見送りや部屋の片づけなどにかかるお金
今までは、すべてを老後のためのなんとなくの貯金としてひとまとめに見ていました。
でも、それを用途ごとに分けて考えた方が、「どこまで使っていいのか」「何を残しておくべきか」が見えやすくなるのではないか、と感じたのです。
住まいの相談から、思 わぬ方向に話が広がる
数週間後、良子さんはパンフレットに載っていた市と提携している住まいの相談窓口で不動産とお金の相談を兼ねた個別面談を受けてみました。自宅を売るかどうかはまだ決めていません。
ただ、「この家を手放した場合、手元にどれくらいのお金が残りそうか」「賃貸やシニア向け住宅に移るとしたら、毎月どのくらいの支出になるか」といった、ざっくりしたイメージだけでも知りたかったのです。
面談の中で、担当者からこんな説明がありました。
「生活費と医療・介護の備えに加えて、お見送りの費用を別に考えておくと全体の資金計画が整理しやすくなります」
ここでいう お見送りの費用とは、葬儀やお別れの場、場合によってはお墓、そして部屋の片づけや各種契約の解約などに必要なお金のことです。
「たくさん残す、という発想よりも、ここからここまでは、このために使うと決めておく方が、残された人にとっても分かりやすいですよ」
その言葉を聞いたとき、良子さんの中で、何かがすっと腑に落ちました。
「自分を送り出すための費用」は、生活費とは別枠に
生活費は、年金や手元の資金、場合によってはパート収入などでやりくりしていきます。病気や介護の備えは、健康状態や家族の状況に応じて考えていく必要があります。
そのうえで、自分を送り出すための費用は元気なうちにあらかじめ枠を決めておく。
たとえば、葬儀はごく小さな家族葬でよいのか。お墓は持つのか、合祀墓のような形にするのか。部屋の片づけを業者に頼むとしたら、どのくらい見ておきたいか。
細かく決めきれなくても、「このくらいあれば、周りの人が金銭的に困らずに済みそう」という目安を持っておくことで、気持ちがだいぶ違ってきます。
そのための一つの方法として、亡くなったときにまとまった金額が用意される終身タイプの保険などを活用する人もいる、という話も耳にしました。
「どの方法にするかは、これからよく考えるとして、お見送りの費用だけは別枠にしておくという考え方は、自分にも合っているかもしれない」
良子さんは、そう感じ始めていました。
60代からの「身軽になる準備」は、終わりのためだけではない
二階の階段がこわくなったこと。ご近所さんの転倒の話。親の家の片づけで見た現実。
今、良子さんはすぐに家を売るわけではないものの、少しずつ暮らしのサイズダウンを始めています。
二階を使わず一階中心の生活に切り替えられないか検討したり、階段や浴室に手すりをつけて安全性を上げたり。いずれ住み替える前提で、不用品を少しずつ処分したり。
それは決して終わりの準備というネガティブな側面だけを持つものではありません。
「まだ大丈夫」と思えるうちに、すこしだけこの先のことを見据えておく。
それが、おひとりさまの60代にとっての、静かだけれど大切な一歩なのだと思います。
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