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将来の不安を、今日から安心に変える場所

パスワードだらけのメモを見て―62歳おひとりさまがデジタルなお金と「万が一」を考え始めた話

2026.01.20

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「これ、私しか知らないんだよなぁ……」


62歳の聡子さん(仮名)は、古い家計簿にはさんであった一枚のメモを見ながら、思わずつぶやきました。


そこには、ネット銀行のID、証券会社のパスワード、ポイントサービスのアカウント……びっしりと書かれた文字の列がありました。


若いころは、通帳とハンコがすべてでした。しかし今は、スマホとパソコンなしでは、お金の出入りもよく分からなくなってしまいます。


給与は振り込み、光熱費は引き落とし。買い物はキャッシュレス。明細はすべて「Webでご確認ください」。


便利なはずの仕組みを前にして、聡子さんは、ふいに胸の奥がスッと冷えるのを感じました。


「もし私が今、倒れて意識がなくなったら、このお金や契約はどうなるんだろう?」



友人の「入院中の支払いトラブル」


きっかけは、同い年の友人・由紀子さんの話でした。


手芸サークルの帰り、由紀子さんが苦笑いしながら言いました。


「先月、ちょっと入院したでしょう。大ごとじゃなかったんだけど、その間の支払いが大変でね」


聞けば、入院中、メイン口座の残高が一時的に足りなくなり、クレジットカードの引き落としができなかったそうです。


「別のネット銀行にはお金があったんだけど、ログイン情報は自分しか知らないうえに紙に書き留めて机に入れてて。病室で冷や汗かいたわよ」


退院後にすぐに資金を振り替えて事なきを得たものの、「自分しか知らないお金って、便利なようでこわいね」と由紀子さんは漏らしました。


その言葉が、妙に心に残りました。明日の自分の姿のように思えたのです。



自分の口座を並べてみたら


その夜、聡子さんは自分の通帳とメモをテーブルに並べてみました。


普段の銀行口座、金利が良いからと作ったネット銀行が2つ、昔の証券口座、ポイント目当てのクレジットカードのアカウント。


「ああ、たしかに自分では分かるけど、他の人から見たら何が何だかだな……」


普段の生活では便利です。ただ、視点を「自分がいなくなった後」に変えると、急に不安が浮かび上がってきます。


もし、自分が急に倒れてしまったら。もし、スマホの操作ができなくなったら。


家賃や公共料金の引き落としは続く。サブスクも課金され続ける。口座にお金があるのに、誰も動かせない。


「便利さの裏側に、誰も触れないブラックボックスになるリスクも潜んでるんだな」


そう気づいたとき、老後資金以前にそもそもお金にたどり着けない問題があるように思えてきました。



ノートを開いてみたけれど、手が止まる


不安を解消しようと、聡子さんはノートを一冊おろし、表紙の裏にこう書きました。


「口座と契約のメモ。何かあったときは、ここを見てください」


そして最初のページに銀行名を書き始めましたが、すぐにペンが止まりました。


「パスワードまで全部ここに書くのは、さすがにこわい……」


もし空き巣に入られたら? ノートを落としたら? セキュリティを考えると、パスワードをそのまま書くのはためらわれます。かといって、「私にしか分からないヒント」で書いても、いざというときに家族や手続きをしてくれる人が解読できなければ意味がありません。


自分の防犯と、誰かが困らないようにすること。この二つのバランスをどう取ればいいのか分からず、聡子さんはノートを閉じてしまいました。デジタル時代のお金の整理は、想像以上に難しい壁がありました。



親世代は通帳+証書で完結していた


亡くなった父の遺品の中から、古い保険の証書が出てきた時のことを思い出します。


細かい条文はいろいろ書いてありましたが、要するに「亡くなったときにこのお金が支払われる」という、とても分かりやすい内容の保険でした。


その保険金と通帳の預金で、葬儀やお別れの費用をまかなったのでした。


当時は深く考えませんでしたが、振り返ってみるとお金の入口と出口がはっきりしている状態は、とても分かりやすかったのだと感じました。


それに比べて、今の自分はお金がいろいろな口座やネットサービスに分散しています。


「便利になった分、ここを見れば分かるという分かりやすさは減っているのかも」


そんな思いが、ふっと浮かびました。

 


ノートの書き方も、少しだけ前に進んだ


家に帰ってから、聡子さんはノートをもう一度開きました。今度は迷いませんでした。


●     銀行A:普段の生活費用(自動引き落とし多め)

●     銀行B:予備・医療費用

●     ネット銀行C:いざというときのゆとり資金

●     「お見送りに使う予定の資金」:(場所は検討中・別枠にする予定)


パスワードは書きません。あくまで「どこに、どんな役割のお金があるか」だけを、誰が見ても分かるようにしておくことを意識しました。


そして、ページの端に小さくこう書き添えました。


「自分を送り出すための費用は、生きている間のお金とは別にしておきたい。方法はいくつかあるらしいので、一度ちゃんと相談すること」


それは具体的な答えではありません。それでも、あの日感じた「このメモ、私しか分からない」という怖さが少しだけ薄れた気がしました。



デジタル時代のおひとりさまは、お金の場所と出口を決めておく


ネット銀行やサブスクサービスは、とても便利です。一方で、「使う人しか実態を把握していないお金や契約が増えやすい」という側面もあります。それは、いざというときに誰も触れないブラックボックスになりかねません。


すべてを完璧に整理しようとして挫折するより、まずは用途をしっかり分けておくこと。


そのために、口座を分ける方法もあれば、亡くなったときにだけお金が動くような仕組みを使う方法もあると知っておくこと。そして、「いざというときに最初に連絡してほしい人」や、相談できる窓口を書き残しておくこと。


こうした小さなステップだけでも、何かあったとき全部が宙に浮いてしまうような不安は少しずつ静かになっていきます。


パスワードだらけのメモを前に感じたヒヤリとした感覚を、そのままにしておくのではなく、分かりやすくしておくという方向に、紙一枚ぶんでも動かしておくこと。


それは、デジタル時代を生きる60代おひとりさまにとってのごく現実的で等身大の備えなのだと思います。


このタイプの人におすすめの備え

老後のお金がいくら必要か知る

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