
絶対に知っておいて欲しいこと 執筆:太田垣章子(司法書士)
2025.12.4




乳飲み子抱えて離婚。働きながら勉強し36歳で司法書士に。住まいを中心とした終活サポートを20年以上実施。人生後 半戦を安心して過ごせるヒントを広めるために、執筆や講演だけでなくテレビやラジオ出演など活動の場を広げている。最新書籍:最後は誰もがおひとりさまのリスク33
人生のご褒美タイムは、残念ながら素敵なことばかりじゃありません。
高齢者になると個人差がとても激しくなる時期ではありますが、少しずつ判断能力が落ちるか、体が弱るか、その両方となるのか、とにかく弱ってくる時期でもあります。
2025年10月の共同通信の報道によると、2024年度スポーツ庁の体力・運動能力調査の結果、30代後半女性の低下傾向が示されました。「筋肉は裏切らない」という名言がありますが、認知機能と筋力も密接な関係があり、ご褒美タイムを楽 しむためにも運動の習慣は取り入れたいですね。
さて誰もがなりたくないと思っている「認知症」。でも平均寿命が延びたということは、それだけ認知症リスクも高まるということ。日本は、先進国の中で最も多いと言われています。
私も個人的には「認知症にはなりたくない」と「亡くなっても綺麗なうちに(特殊清掃にならずに)見つけて欲しい」と願っています。念ずれば花ひらく! あれっ、ちょっと違うかな? まぁ、いいです、そう心にしながら備えています。

判断能力が低下すると実際に困ること
判断能力が低下すると、次のようなことが問題になります
・家族であっても本人の銀行口座からお金が引き出せなくなる
・自分では介護認定の申請ができない
・日々の生活に支障が出てくる
・幻聴、幻覚に悩まされることがある
・うつ状態に陥りやすい
・騙されやすくなる
・側にいる人にすがる傾向となる
もちろんもっとありますが、まずは具体的に見て行きましょう。
① 銀行口座からお金が引き出せなくなる
本人が自分でお金の管理ができなくなった時、家族が代わりにと思ってもできません。親の預金を使ってホームに入所させようと思っても、本人以外は大金を下ろす、定期の解約等はできません。親のお金を親のために使うのに、何がダメなの?と思われるかもしれませんが、今や「本人の意思」が最重要される時代。本人の意思が確認できなくなると、基本、本人のお金 を動かすことはできなくなります。
ここでの救世主は、代理人カード(金融機関によってネーミングは多少違います)。これは予め本人が代理人用に作っておけば、その代理人は本人の普通口座を自由に出し入れすることができるというもの。ただし普通預金口座のみで、金額も一般的には1日に50万円という限度枠が定められています。そのため大きなお金を動かすことはできません。
どうしても解約等する必要がある場合には、法定後見制度を利用するしかありません。
② 自分では介護認定の申請ができない
当たり前のことなのですが、介護認定は勝手にしてくれる訳ではありません。申請して初めて診断等がなされて行きます。判断能力が低下してしまうと、当然ながら自分で自分の介護認定の申請はできません。そこで第三者に、申請してもらう必要があります。せっかく介護保険料を40歳から強制的に支払ってきたのに、利用するためには誰かに協力してもらうしかありません。地域包括支援センターと繋がることは、どうしても「年寄りと 自分で認めるようで嫌だわ」と思いがちですが、それは大きな間違い! 1日でも長く自立した生活ができるように、サポートしてくれる制度です。ぜひ要支援の段階から、地域包括支援センターと繋がっておきましょう。そうすれば担当のケアマネジャーが、状態に合わせてアドバイスをしてくれたり申請を促してくれたりもします。
ちなみに要支援1というのは、座っている状態から立った時に「ふらつく」ことがある、というレベル。私だって、ふらつくことくらいあります! だから早い段階から、地域包括支援センターとは、繋がっておきましょうね。転ばぬ先の杖になってくれます。
③ 日々の生活に支障が出てくる
要支援1になると、家の中の手すり等をマックス20万円分1割負担でつけることができます。手すりを使ったりしながらでも、自分の足で動き回りたいですよね。また認知機能が落ちてしまうと、日々の生活に支障が出てきます。家賃を払っていないのに「払った」と本人は思い込んでいたり、泥棒対策でお金を隠して、そのこと自体を忘れてしまい「盗まれた」と警察を呼んでしまったり。千差万別の症状なので判 断が難しい点も、発見を遅らせてしまう要因かもしれませんね。
④ 幻聴、幻覚に悩まされることがある
ご本人には実際に聞こえるし、見えるのです。燃えていると思って、一生懸命に水をかけて「消えない、消えない」とパニックになる方もいます。被害妄想から、自分を追い込んでしまうこともあるようです。
⑤ うつ状態に陥りやすい
真面目な人ほど、うつ状態になる傾向があると感じています。昨日までできていたことが今日できない……そう悲観して、うつ状態になってしまうのです。怖くてお酒に逃げてしまうこともあります。高齢者のうつと、MCI(軽度認知障害)の見極めは、本当に難しいと言われています。
⑥ 騙されやすくなる
今やいろんな詐欺が出てきていて、若い人でも騙されてしまう時代。でもやっぱり狙われてしまうのは、高齢者世代です。確率的には圧倒的に高いのでしょう。つい信じて購入してしまう、そういうこともあります。お家に行くと、たくさんの着物が積まれていることがあります。残念ながら、昔のものではありません。買っているのです。そして着ることもありません。もしかしたら構ってもらうことが嬉しくて、買ってしまうということもあるかもしれませんね。
⑦ 側にいる人にすがる傾向となる
人は衰えてくると、「今」側にいる人に縋ってしまう傾向があると感じています。
例えば子どもが3人いて、それぞれが順番に4ヶ月ずつ家で親の面倒を見るとなったケース。今一緒にいる子どもに、他の二人に「こんなことをされた」と伝えて同情してもらおうとしたり、「貴方だけが頼りだから財産は貴方に」と遺言書を書いたり。そして次の子の家で、また同じことを繰り返す。亡くなった後、13通の遺言書が出てきたことがありました。そうすることで大切にしてもらいたい、構ってもらいたい、という思いがあったのでしょう。とても切ない思いをしたことを覚えています。
これは高齢者身元保証等サポート事業者や後見人、介護サービスの人たちにも言えることで、ご本人からすると頼る大切な人たちなのです。大切にしてもらえると信じて、ついお金(お小遣い)をあげようとしてしまいがちです。だから受任者側には高い倫理観が求められます。

悲観しても仕方がありません! 備えていれば安心です!
人生のご褒美タイムとはいえ、高齢期になればいろいろあります。でもね、悲観していても仕方がありません。個人差もあります。最後まで頭もはっきりしていて、眠るように亡くなる方もいらっしゃいます。認知症が進んでしまい、グループホームに入所されても楽しそうなおじいちゃん、おばあちゃんはたくさんいます。人生は楽しんだ者勝ち!ですから、万が一のために、備えさえしておけばいいんです。
では何を備えたら良いのでしょうか?
ここでは任意後見制度と死後事務委任契約のことを、お伝えしたいと思います。
① 任意後見制度とは
これはまだ判断能力がある間に、自分で万が一の時に自分の代わりに対応してくれる代理人を決めておくものです。具体的には家族や司法書士などの専門家や、高齢者身元保証等サポート事業者等を代理人として選びます。そしてその代理人と公正証書で契約します。
契約の中身は、自分の判断能力が衰えた時に、具体的に「こうして欲しい」「このお金からこれに使って欲しい」等を細かく決めておきます。
でもまずは決めただけ! 自分が元気な間は、自由に、思う通りの生き方をしてお けば良いのです。この任意契約に縛られることはありません。
そして万が一、判断能力が衰えてきたら、この契約がスタートします。予め決めていた通りに、任意後見人が対応してくれます。
つまり自分が「この人(法人)だ!」と納得した人(法人)と、自分が思うことを契約しておくという保険みたいなもの。使うか使わないかは、本人の状態次第。最後まで使わないまま、亡くなる人もいます。でもこのような備えをしておくことで、せっかく貯めてきた自分のお金を「自分のために」使えない、という最悪のケースは免れます。
さらに自分の判断能力がある間は、契約した相手方が「何か違う」と感じたら、契約解除もすることができます。とても安心な制度だと思いませんか?
この契約をしておけば、自分のお金も自分の決めていた通りに使うこともできますし、介護と繋いでもらえたり、様々な契約を自分の代わりにしてもらうことができます。
「後見制度は良くない、自由がなくなる」という意見を時々耳に しますが、それは法定後見制度のこと。任意後見制度と法定後見制度は、「後見制度」という部分は同じですが、全くの別物です! 紛らわしいですよね。名前を変えて欲しいとまで思います。
法定後見制度は何も備えていなかった人が、財産等を使いたいのに使えないので仕方がなく利用する制度です。本人の意思はもう確認できないので、裁判所が勝手に代理人を決めます。勝手に決められた代理人も、本人の意思が確認できないので、本人のためにだけお金を使います。つまり家族のことは基本考慮しません。だから法定後見制度を利用した時に、ご家族から「良くない、自由が効かない」という評価になるのです。
この点、任意後見は、誰に託すかを自分が決めるので安心です。そして家族のことも契約書に盛り込めば良いので、同居の家族を守りたければそれも可能になります。
この任意後見制度が、もっと正しく知られて利用してもらえたら良いなと思っています。
② 死後事務委任契約とは
どんなにしっかりしていても、亡くなった後のことは自分ではできません。一連の葬儀の手続きが、その最たるもの。せっかく樹木葬にしたい!と思っていても、誰かに依頼しておかねば、勝手にはしてもらえません。
任意後見制度は委任契約なので、当事者のどちらかが亡くなったら契約は終了します。そのため後見人は、亡くなった後のことをしてあげられません。
一般的には任意後見の契約をする際に、死後事務委任契約も同時にしておきます。そうすれば亡くなった後も、自分の望む葬儀や納骨をしてもらうことができるので安心ですね。
「家族がいれば必要ない?」と聞かれることが、多々あります。
でも個人的にはご家族がいても、利用した方がいいと感じています。その理由は、ご遺族も最近では人数が少ないので、悲しむ暇がないほど手続きに追われます。しかも「死後」のことだなんて、人生で何回も経験することではありません。だから分からないまま、あれやこれやと振り回されます。本当はちゃんとお別れをしたいのに……。
だから死後事務委任契約をしておけば、ご親族にもきっと喜んでもらえるでしょう。遺族側も煩わしい手続きは全部してもらえるので、プロに任せて安心だと思います。
ご家族がいても迷惑をかけたくない、そう思う人は多くなりました。私も今のところ、家族は息子ひとりです。そうなると何もかもを担うとなれば、相当な負担になるはず。私が平均寿命まで生きたとすれば、彼だってしっかり高齢者のはず。だから全部契約しておこうと思っています。
日本人全員が当たり前のように、この任意後見制度や死後事務委任契約を利用していけば、ご褒美タイムからのお別れも含めて混乱はなくなると思います。もっと浸透して欲しいと願っています。
さらに私は、亡くなってから手を合わせられるくらいなら、「今」感謝してと息子に言っています。だから息子は会うたびに、私に手を合わせます笑。
側から見ればおかしな親子かもしれませんが、死は必ず来るからこ そ、親子でいられる時間を楽しんでいます。同時に私が倒れた際の治療方法とかも、当たり前のように話し合います。勝手に延命なんてされたら、たまりません。希望はバンバン伝えています。
そしてこれは大切なお友だちやお仕事関係の方々とも、同じこと。誰もが必ず「亡くなる」し、でもそれがいつなのか、そこまでにお互いがどう変化していくのかがわかりません。
だからご褒美タイムは、いろんな人間関係を大切にする時間でもあります。貴方も、身近な人に「ありがとう」を伝えませんか?
ちゃんと感謝を伝えようと思っていたのに……と悲しむのは、あまりに辛すぎます。
何度ハグしても良いじゃないですか。大切な家族や友達たちには、たくさんありがとうを伝えても、きっと伝えきれないはず。
不安ほど、辛いものはありません。そして不安なのは、知識がないから。知識を入れて備えたら、あとは心配ご無用! 思いっきり、大切な人たちとご褒美タイムを味わっていきましょう。
最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございます。
あなたはもう、人生後半戦の準備を始める立派な一歩を踏み出しています。
思い立ったが吉日。
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